日本ウナギ会議


1. 日本ウナギ会議とは

日本ウナギ会議とは, 専門家や研究者間でのウナギの保全と持続的利用に関する情報共有を促進するための会です. 2014 年に企画されたウナギ資源ワークショップ 2014 を前身として, 翌年 2015 年に発足しました. これまでニホンウナギに関する情報共有だけでなく問題に対する対策, 今後の方針などに関する議論がなされてきました.


2. ニホンウナギの現状

2-1. ニホンウナギとは

ニホンウナギ Anguilla japonica は, 条鰭綱 (Actinopterygii), ウナギ目 (Anguilliformes), ウナギ科 (Anguillidae), ウナギ属 (Anguilla) に属しています. 主に 4-8 月に西マリアナ海嶺付近で産卵すると考えられています. 北赤道海流により輸送されながらレプトセファルスへと成長し, シラスウナギに変態した頃に台湾, 日本, 中国, 韓国など東アジアの沿岸域に接岸します. その後はそのまま河口域にとどまるか, 沿岸域・上流域へと移動し, 黄ウナギとして成育期を過ごします. 7-10 年程度の成育期の後, 性成熟に伴い銀化して銀ウナギへと変態し, 秋から冬に産卵場に向かって産卵回遊を開始します.

本種は分布域の東アジア諸国 (日本, 中国, 台湾, 韓国) における重要な水産資源であり, 日本では年間で 5 万 1 千トン (2015 年) が消費されています.

2-2. 個体群の減少

農林水産省の漁業・養殖業生産統計から得た漁業生産量によると, 日本におけるニホンウナギの漁獲量は 1960-70 年代をピークに, その後減少を続けています. この急激な漁獲量の減少等を受け 2013 年 2 月に環境省は第四次レッドリストにおいて絶滅危惧 IB 類に区分し, その後 2014 年 6 月には, IUCN (国際自然保護連合) が The IUCN Red List of Threatened Species 2014 において絶滅危惧種 (Endangered, EN) に区分しました.

2-3. 基礎的情報の不足

保全と持続的利用を目指した対策を進める際には, 基礎的な情報として資源量 (個体群サイズ) の動態や生活史に関する情報を把握する必要があります. 現在, 特に個体群サイズの動態に関する情報が不足しているのが現状です.


3. 減少要因

ニホンウナギの個体群減少の主要な要因は, 過剰漁獲, 成育場環境の劣化, 海洋環境の変化が主な減少要因と推測されています. これらの要因の相対的な重要性は, 現在のところ明らかにされていません.

3-1. 過剰漁獲

水産庁発表の資料によると, ニホンウナギ以外の種も含め, 2015 年には約 5 万トンのウナギが国内で供給されています. この消費を満たすための漁獲量が過剰である可能性が高く, その場合は, 消費量が過剰であるといえます.

3-2. 成育場環境の劣化

ニホンウナギが成育期を過ごす東アジアの河川や沿岸域の環境の劣化, 例えば河川横断工作物による接続性の劣化や, コンクリート護岸や矢板等による成育場環境の単純化は, 個体群の減少につながります.

3-3. 海洋環境の変化

ニホンウナギは, 産卵場で生まれてから成育場にたどりつくまでの半年間, 成育場から産卵場へ向かう半年間の, 合計約 1 年間を海洋で過ごします. このため, 海洋環境に変化が生じれば, 個体群にも大きな影響があると考えられます.


4. 今後必要な保全策の方針

日本ウナギ会議 2016 では, i) 採捕, 漁獲管理, ii) 流通と消費, iii) 成育場環境, iv) 資源動態のモニタリング, v) 社会全体の情報共有, vi) その他, に関して, 優先されるべき課題の合意に至りました.

i) 採捕, 漁獲管理

シラスウナギ

正確な採捕量と努力量の把握

採捕量と採捕努力量を把握することで, 資源量動態の推測と持続可能な漁獲量の算出が可能になります.

科学的根拠に基づいた池入れ制限量の決定に向けた作業

日中台韓で確認された池入れ量 (養殖場に入れるシラスウナギの量) の制限を, 科学的根拠に基づいて決定することにより, 池入れ量制限合意を, より効果的に資源の持続的利用に結び付けることができます.

黄ウナギ・銀ウナギ

下りウナギの採捕禁止・自粛に向けた取り組みの推進

現在一部の都県において行われている下りウナギ採捕禁止・自粛 (ウナギ漁の季節的な制限) を他の地域にも拡大することで, 産卵に向かうウナギを保護することができます.

ii) 流通と消費

シラスウナギ

流通の透明化に向けた関係者との話し合い

採捕者, 問屋, 養殖業者, 外食産業, 小売業者, NGO, 地方行政, 国家行政, 専門家, 一般市民などの関係者との議論を進めることは, シラスウナギの流通の透明化を進めるために不可欠です.

iii) 成育場環境

生態系に配慮した河川・沿岸管理

生態系に配慮した構造物の構築・更新

完成から長い年数が経ち, 更新の時期を迎えた河川や沿岸の構造物については, 地域住民と河川管理者, 専門家が議論することで, 生態系に配慮した更新を進めることが望まれます.

川と海のつながりの回復

川と海のつながりを保全・回復することで, ニホンウナギが利用可能な生育場面積が拡大します.

氾濫原の代替(水田、遊水池)の活用

近年減少している氾濫原の代替として, 水田や遊水池の活用が望まれます.

河口干潟の保全と回復

河口や干潟は初期成長やその後の成育場として利用されています. その重要性については現在研究が進められていますが, さらなる研究や保全の取組が必要になると考えられます.

優良事例の創出と紹介

資源量の回復に寄与するような取組を創出すること, もしくは現在行われている場合はそれを紹介することによって, 保全と持続的利用を目指した取り組みを普及促進することができます.

生態と取組の効果のモニタリング手法に関する調査研究

保全と持続的利用を目指した調査研究例は少なく, 今後も本種の理解のため継続して行われることが求められます. また, その手法の効果を測定するためのモニタリング手法の調査研究も必要になります.

iv) 資源動態のモニタリング

資源動態を把握するための研究者による指標の検討(日本 + 東アジア)

資源動態を把握するために必要な採捕量や努力量の調査手法や指標等は未だ定められておらず, 今後研究者間での合意形成が必要です. また, 本種は東アジア諸国にも分布するため東アジア全体での統一基準も必要になります.

取組の効果のモニタリング

上記の調査を行う際は, その効果を把握する必要があり, 必ずモニタリングと合わせて実施する必要があります.

v) その他

放流の効果・影響と効果的な手法の検証

放流が産卵個体群に及ぼす影響や産卵回遊の成否を確かめる手法は未だ確立されていないため, 今後その効果を見るための手法開発が必要です. また, より効率的に放流を行うための手法の検証も求められます.

 

ニホンウナギの現状と持続的利用・保全に向けた方針 (日本ウナギ会議 2016)


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